未経験エンジニアのリアルな給料事情【業界別ガイド】
あなたもITエンジニアに?未経験からのスタート、気になる「お給料」の話
「ITエンジニア、人手が足りなくて引っ張りだこらしいよ」「未経験からでもなれるって本当?」そんな話を耳にして、IT業界への転職や就職を考え始めた人もいるのではないでしょうか。デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が社会全体に広がる中、ITエンジニアの需要は確かに高まっています。実際、日本国内ではIT人材の不足が指摘されており、これは新しい挑戦をしたい人にとっては大きなチャンスとも言えます。ITエンジニア全体の平均年収は約442万円というデータもありますが、これは経験豊富なベテランも含めた数字です。この記事では、これからITエンジニアとしてのキャリアをスタートさせたいと考えている「未経験者」に焦点を当て、そのリアルな初任給(年収)について、業界ごとの違いを分かりやすく解説していきます。
ここで言う「未経験者」とは、主にIT分野とは異なる学部を卒業して新卒でIT企業に入社する人、プログラミングスクールや職業訓練校で基本的な知識・スキルを学んだ人、あるいは全くの異業種からIT業界へのキャリアチェンジを目指す人などを指します。この記事の目的は、こうした方々が日本のIT業界で最初の仕事に就く際に、どのくらいの年収を期待できるのか、現実的な目安を示すことです。もちろん、給料は仕事選びの重要な要素ですが、働きがい、ワークライフバランス、学びの機会、会社の文化なども同じくらい大切だということも、心に留めておいてください。
知っておきたい給料を決める要因
未経験者向けの求人であっても、提示される給料は一律ではありません。業界ごとの具体的な話に入る前に、初任給に影響を与えるいくつかの要因を知っておくことが大切です。経験の有無以外にも、勤務地(特に首都圏と地方では差が出やすいです)、会社の規模(大手企業か中小企業か)、そしてたとえ基礎的なレベルであっても、身につけている具体的なスキル などが、給与水準に関わってきます。これらの要素が絡み合って、同じ「未経験エンジニア」でも、業界や企業によって給与に差が生まれる理由を理解する助けになります。これにより、「未経験なら給料は〇〇万円」といった単純な話ではないことが分かるはずです。
「みなし残業代」に注意!
給与情報をチェックする際に、特に注意したいのが「みなし残業代」または「固定残業代」と呼ばれる制度です。これは、給与の中に、あらかじめ一定時間分の残業代が含まれている仕組みを指します。例えば、「月給30万円(みなし残業40時間分を含む)」といった形で求人票に記載されています。この制度自体が悪いわけではありませんが、注意が必要です。みなし残業代が含まれていると、含まれていない場合に比べて、求人広告で提示される月給や年収の額面が高く見えることがあります。
求職者が複数の企業からのオファーを比較する際、単純に提示された年収総額だけを見てしまうかもしれません。しかし、みなし残業代の割合が大きい場合、それは基本給(所定労働時間に対する給与)が相対的に低いことを意味する可能性があります。また、含まれている時間を超える残業をしなければ、追加の残業代が支払われないケースもあります。そのため、給与オファーを受け取ったら、総額だけでなく、基本給がいくらで、みなし残業代が何時間分としていくら含まれているのか、その詳細を確認することが非常に重要です。これにより、異なる条件のオファーを公平に比較し、その仕事の本当の価値を見極めることができます。不明な点があれば、遠慮せずに企業側に確認しましょう。
業界別!未経験ITエンジニアのスタート給与
さて、ここからが本題です。IT業界の中でも、どの分野でキャリアをスタートさせるかによって、期待できる初任給は変わってきます。ここでは主要な業界ごとに、未経験エンジニアの一般的な年収レンジを見ていきましょう。ただし、これらはあくまで目安であり、個別のオファーは前述の要因によって変動することを念頭に置いてください。
SIer (システムインテグレーター)
システムインテグレーター(SIer)は、顧客企業(官公庁、金融機関、メーカーなど)の要望に応じて、業務システムの設計、開発、運用・保守などを請け負う企業です。大手企業から中小規模の企業まで、その規模は様々です。
未経験者(特に新卒)の初年度年収としては、大手SIerの場合、約350万円から450万円程度が一般的です。一方、中小規模のSIerでは、300万円台前半からスタートすることも少なくありません。これは、未経験エンジニアの一般的な年収レンジとされる300万円~400万円の範囲内におおむね収まります。特に大手SIerでは、入社後の研修制度が充実していることが多く、未経験者にとっては体系的にスキルを学ぶ良い環境となる可能性があります。SIerは、新卒者を中心に、IT業界への入り口として一般的な選択肢の一つとなっています。
Web系企業
Web業界の企業は、自社でWebサービスやスマートフォンアプリ、ECサイトなどを企画・開発・運営しています。有名な大手企業から、設立間もないスタートアップまで、多種多様な企業が存在するのが特徴です。
未経験者の初年度年収は、企業によって幅があります。比較的新しいスタートアップ企業などでは、年収300万円程度からのスタートとなることもあります。こうした企業では、給与に加えてストックオプションが付与される可能性もありますが、未経験の段階ではその価値がすぐに大きなものになるとは限りません。一方、既に確立されたサービスを持つ大手Web企業やメガベンチャーなどでは、350万円から400万円、場合によってはそれ以上でスタートすることもあります。これも、未経験エンジニアの一般的な年収レンジ と照らし合わせてみましょう。Web業界全体のエンジニアの平均年収は約426万円 ですが、未経験からのスタート時点では、平均よりも低い水準から始まることが一般的です。
Web業界を選ぶ際には、単に初任給の額面だけで判断するのは早計かもしれません。スタートアップでは、初任給は比較的抑えめでも、若いうちから幅広い業務に携われたり、意思決定のスピードが速かったりするなど、急成長できる環境があるかもしれません。ただし、その反面、労働時間が長くなりがちだったり、教育体制が整っていなかったりする可能性も考慮する必要があります。一方で、大手Web企業では、比較的安定した環境と、より明確な役割分担の中でスキルを磨ける可能性があります。このように、Web業界では、初任給だけでなく、将来の成長機会、リスク、企業文化、そして給与以外の報酬(ストックオプションなど、ただしその価値は慎重に見極める必要あり)といった要素を総合的に比較検討することが、キャリアチェンジを目指す人にとって特に重要になります。
社内SE
社内SEは、IT企業ではなく、メーカー、金融、小売、サービス業など、一般事業会社の情報システム部門などで働きます。その役割は、自社の業務で使用するITシステム(ネットワーク、サーバー、業務アプリケーションなど)の企画、開発、運用、保守、社員からの問い合わせ対応など多岐にわたります。
未経験者向けの社内SEポジションの初年度年収は、約350万円から450万円程度が目安となることが多いようです。これは、場合によってはSIerやWeb系企業の未経験者向けポジションの初任給よりも高い水準になることがあります。社内SE全体の平均年収が約479万円と、他の職種と比較して高い傾向にあること を考えると、この傾向はキャリアのスタート時点から見られる可能性があります。
なぜ社内SEの初任給が比較的高めになることがあるのでしょうか。一つの考え方として、社内SEには、特定の技術領域に深く特化するよりも、社内の様々なシステムやユーザーニーズに対応できる、より広範な知識やスキルが初期段階から求められる傾向があることが挙げられます。企業活動を支えるITインフラを安定的に維持・管理することがミッションであり、そのために多様なタスクに対応できる人材を確保したいという企業の意向が、給与水準に反映されているのかもしれません。また、社内SEを採用する企業は、IT業界以外の安定した大手企業であることも多く、そうした企業の給与体系が適用されることも一因と考えられます。
ITコンサルタント
ITコンサルタントは、企業の経営課題をIT戦略の策定やシステムの導入によって解決するためのアドバイスや支援を行います。高い分析力やコミュニケーション能力が求められ、仕事はハードである一方、報酬も高い傾向にあります。
未経験者(主に新卒)向けのポジションでは、初年度年収が450万円から600万円程度と、他のIT職種と比較してかなり高い水準になることがあります。ただし、注意が必要です。全くの未経験者(関連分野の学位やインターン経験がない、など)が、特別な才能や適性(例えば、難関大学卒業など)を示すことなく、直接ITコンサルタントとして採用されるケースは、SIerやWeb系企業に比べると一般的ではないかもしれません。選考プロセスも非常に厳しいことで知られています。したがって、高いポテンシャルを秘めた魅力的な選択肢ではありますが、一般的なキャリアチェンジャーにとっては、他の職種よりもハードルが高い可能性があることを認識しておくべきでしょう。
ゲーム開発
ゲーム開発業界は、家庭用ゲーム機、PC、スマートフォン向けのゲームを制作する企業が集まっています。「ゲームが好き」という情熱を持った人が多く集まる業界としても知られています。
未経験エンジニア(プログラマー、プランナーなど)の初年度年収は、約300万円から380万円程度が一般的なようです。これは、他のITセクター、特に大手SIer、大手Web企業、社内SEなどと比較すると、やや低い水準になる可能性があります。
この背景には、ゲーム業界特有の事情があるかもしれません。ゲーム開発は非常に人気が高く、多くの人が情熱を持ってこの業界を目指します。その結果、企業側から見ると、エントリーレベルのポジションに対して応募者が多数集まりやすい状況が生まれます。このような状況下では、企業は必ずしも他の業界と同等かそれ以上の高い初任給を提示しなくても、優秀な人材を確保できる可能性があります。これは俗に「パッションタックス(情熱税)」と呼ばれることもあります。もちろん、ゲーム開発ならではのやりがいや面白さは大きな魅力ですが、キャリアのスタート地点での報酬水準については、他の選択肢と比較検討する価値があるでしょう。
未経験ITエンジニアの業界別スタート年収比較表
ここまでの情報を、一覧表にまとめてみましょう。各業界の特徴や注意点も添えてありますので、比較検討の参考にしてください。
業界 | 未経験者の年収目安 | 主な特徴・注意点 |
---|---|---|
SIer (大手 / 中小) | 約350~450万円 / 約300万円~ | 安定・研修充実 / 企業規模で差 |
Web系 (大手 / スタートアップ) | 約350~400万円+ / 約300万円~ | 自社サービス・技術トレンド / 企業文化多様・ストックオプション? |
社内SE | 約350~450万円 | 安定性・幅広い業務 / 企業による |
ITコンサル | 約450~600万円 | 高給与・激務? / ※未経験からの難易度、要確認 |
ゲーム開発 | 約300~380万円 | 専門性・『好き』が原動力? / 他分野比でやや低め? |
全業界共通の注意点 | 給与に「みなし残業代」が含まれていないか、含まれている場合はその詳細(時間・金額)を必ず確認 |
この表は、あくまで一般的な傾向を示すものです。個別の求人では、企業の状況や本人のスキル・ポテンシャルによって、提示される条件は異なります。
スタート後の給与アップは?
未経験からITエンジニアとして働き始めた後、給料はどのように変化していくのでしょうか。安心してください、スタート時の給料はあくまでも第一歩です。
IT業界では、入社後数年間で給与が上昇していくのが一般的です。特に重要なのは、実務経験を積み重ねること、そして新しいスキルを積極的に習得していくことです。最初のうちは覚えることが多く大変かもしれませんが、経験とスキルが給与に反映されやすいのがIT業界の特徴とも言えます。日本全体でIT人材が不足している という背景もあり、企業側もスキルを身につけた人材を引き止め、育成していくために、給与アップで応えようとする傾向があります。
給与アップの鍵を握るのは、やはり「スキル」です。常に新しい技術が登場するIT業界では、学び続ける姿勢が不可欠です。例えば、需要の高いプログラミング言語(Python, Java, JavaScriptなど)を深く習得したり、クラウド技術(AWS, Azure, GCPなど)に関する知識や資格を身につけたりすること は、自身の市場価値を高め、より良い給与を得るための有効な手段となります。
最初にどの業界(SIer, Web系, 社内SEなど)を選ぶかによって、初期に触れる技術やプロジェクトの種類は異なるかもしれません。例えば、SIerでは大規模システムの開発手法や特定の業務知識、Web系企業では最新のWeb技術やアジャイル開発、社内SEでは幅広いITインフラの知識といった具合です。しかし、どの分野に進んだとしても、新しい言語、フレームワーク、プラットフォームなどを継続的に学び、変化に適応していく必要性は共通しています。長期的に見れば、この「学び続ける力」こそが、数年後の給与水準を決定づける最も重要な要素となるでしょう。個人の努力次第では、後から専門分野を変えたり、より高い給与を求めて転職したりすることも可能です。つまり、スタート時の業界による給与差は、スキル習得への取り組み方次第で、将来的に小さくなる、あるいは逆転する可能性も秘めているのです。
給与交渉や情報収集のヒント
初めてのIT業界での仕事探し、特に給与に関しては、いくつか知っておくと役立つポイントがあります。
調査が鍵
まずは情報収集から始めましょう。この記事で紹介したような業界ごとの一般的な年収レンジを参考にしつつ、求人サイトや企業の採用ページ、転職エージェントなどを通じて、自分が応募しようとしている具体的な職種や勤務地での給与相場を調べてみましょう。
提示内容をよく理解する
内定を得て給与条件が提示されたら、その詳細をしっかり確認することが重要です。特に、月給や年収の総額だけでなく、基本給はいくらか、みなし残業代(固定残業代)が含まれているか、含まれている場合は何時間分でいくらなのかを必ずチェックしましょう。また、住宅手当、通勤手当、資格取得支援制度、研修制度などの福利厚生も、実質的な待遇の一部として考慮に入れると良いでしょう。
強みを活かす
未経験者の場合、入社時の給与交渉の余地は限られていることが多いですが、それでも自分の強みをアピールすることは無駄ではありません。例えば、プログラミングスクールで特定のスキルを習得したこと、基本情報技術者試験などの資格を取得していること などは、たとえ小さな点であっても、学習意欲やポテンシャルを示す材料になります。これらが直接的な給与アップに繋がらなくても、企業が設定している給与レンジの中で、より良い条件を引き出す助けになる可能性はあります。
学習の可能性に注目
特に最初の仕事では、提示される給料の額面だけでなく、「そこで何が学べるか」「どのようなスキルが身につくか」という視点を持つことが非常に大切です。将来的に高い給与を得るためには、まず実務経験を通じて市場価値の高いスキルを習得することが不可欠です。最初の職場を、将来のキャリアへの投資期間と捉え、成長できる環境かどうかを重視するのも賢明な考え方です。
IT業界への扉を開けよう
この記事では、未経験からITエンジニアを目指す際の、業界別の初年度年収の目安について解説してきました。SIer、Web系企業、社内SE、ITコンサルタント、ゲーム開発といった分野ごとに、給与水準には違いがあり、一般的には年収300万円台から450万円程度の範囲に収まることが多いですが、ITコンサルタントのように高い水準から始まる可能性のある分野や、ゲーム開発のようにやや低めの水準からスタートする可能性のある分野も存在します。また、会社の規模や所在地によっても条件は変わってきます。
重要なのは、提示される給与が「みなし残業代」を含んでいるかどうかを確認し、基本給や手当などの内訳を理解することです。そして、スタート時の給与はあくまでも出発点であると捉えることです。IT業界は、経験を積み、スキルを磨けば、着実に給与アップが期待できる分野です。人材不足という背景もあり、成長の機会は豊富にあります。
これからIT業界への第一歩を踏み出す皆さんは、給与という条件だけでなく、仕事内容、会社の文化、ワークライフバランス、そして何よりも「自分がそこで成長できるか」という点を総合的に考慮して、最適なスタート地点を選んでください。あなたのエキサイティングなITキャリアは、まだ始まったばかりです!